次世代のライブ配信サービス?ブロックチェーンベースのライブ配信サービス。

個人による編集されていない「生」情報の動画情報発信は現代の日常になりつつある。ライブ配信サービスの代表アプリケーションといえばYouTubeやTwitchが挙げられるが、昨今ブロックチェーンベースのライブ配信サービスが注目を浴びている。ブロックチェーン技術は非中央集権型の仕組みで、ビットコインから始まり、暗号通貨、今では金融の領域を超えた別の領域での適用の可能性について技術サービス検証が行われており、これまでのテクノロジーの在り方の大前提を大きく変える可能性を持っている。ブロックチェーンベースのライブ配信は次世代のライブ配信サービスとなるのか?

今回のブログでは、今後益々需要が高まるライブ配信について、ブロックチェーンベースで提供するサービスをいくつか取り上げ、どんな課題を解決しようとしているのか、今後の展望について考えてみたい。

目次

  1. 中央集権型ライブ配信サービスと抱える課題

  2. ブロックチェーンベースのライブ配信サービス:課題解決への取り組み

  3. ライブ配信サービス:非中央集権型と中央集権型の比較

  4. ブロックチェーンベースのライブ配信サービス事例:

    1. DLive: (概要・どんな課題を解決しようとしているのか)

    2. THETA.tv(概要・どんな課題を解決しようとしているのか)

  5. 今後の展望

1. 中央集権型ライブ配信サービスと抱える課題

ライブ配信サービスの代表アプリケーションといえば、YouTubeやTwitchが挙げられるだろう。それぞれ、GoogleやAmazonといった大企業がサービスを提供するサービスだ。圧倒的なユーザー数(配信者、視聴者ともに)、安定した配信ネットワーク環境、膨大なデータの管理やルール作り、すべてサービス企業が担う。データは一極集中し、その利用決定権はそのサービス企業に帰属する。言わば中央集権型のサービスである。

中央集権型サービスは安定したプラットフォームを活用できる一方で課題も抱えている。例えば、配信者からはそのサービス利用における収益化条件の高さや収益割合に対する不満の声を聞く。データ配信に目を向けると、4K, 8K, VRを利用したサービスで今後予測されるデータ量の激増に対する懸念も挙げられている。膨大なデータ通信量を賄うためには、そのデータ回線の用意はもちろん、それらを管理するコスト(データセンターの設立やメンテナンス)負担が大きくかかってくる。

2. ブロックチェーンベースのライブ配信サービス:課題解決への取り組み


そこで、これらの問題を解決しようとブロックチェーン技術を基盤としたライブ配信サービスが注目されるようになってきた。非中央集権型のサービスだ。それらは、中央集権型サービスが抱える問題を解決し、新しい価値を創出している。配信者及び視聴者の価値を見直し、それに見合った対価の支払いを実現するものや、Decentralized Peer-to-Peerの仕組みでコンテンツ配信ネットワーク(CDN)の問題を解決するものである。

ブロックチェーンベースのライブ配信サービスがいくつかある中で、今回は、上記の課題を解決しようと挑戦し最近注目される2つのライブ配信サービス、DLiveとTHETA.tvを取り上げ、それらのサービス特徴を紹介し解決しようとする課題について触れてみたい。まずは、ライブ配信サービスにおける非中央集権型サービスと中央集権型サービスを比較し、それらの特徴の違いを確認したあと、個別に2つのサービス詳細を見てみたい。


3. ライブ配信サービス:非中央集権型と中央集権型の比較

ブロックチェーン型のライブ配信サービスは中央集権型のそれらと比べて、どのような違いがあるのだろうか。以下の表は、ブロックチェーンベースのライブ配信サービスのDLive, THETA.tvと「中央集権型」の代表であるYouTube、Twitchの比較したものである。

  • Tokenを積極的に利用した仕組み:ブロックチェーン技術をベースとしてToken/暗号通貨を使い、充実したRewardの仕組みを提供。配信者の収益化緩和及び、視聴者の価値の見直しでPlatform貢献の対価の支払いを実現。ユーザー間のPlatform上での活動を促進している。

  • 収益化条件の緩和:YouTubeでは、配信者は、Super Chat(投げ銭)で収益を得るために、1,000人以上のSubscribersと4,000時間(直近12ヵ月)の条件をクリアしなくてはならず、とても高いハードルが設定されている。一方で、DLiveは、最低引き出し額は決まっているものの、収益化条件に関する条件は特に無し。

  • 高い収益割合を設定:DLiveは、プラットフォームの使用料金を徴収しない。中央集権型のサービスは60-70%の中間手数料を徴収。THETA.tvにおいては、TokenとしてのTFuelの利用は、配信者への応援手段や物品の購入などに利用できるようにデザインされており、THETA tv内で利用する形のトークンエコノミー構築に力を入れているように考えられる。

それでは、ブロックチェーン型のライブ配信サービスDLiveとTHETA.tvについて事例詳細をみてみよう。

4. ブロックチェーンベースのライブ配信サービス事例

A. DLive (https://dlive.tv/)
概要

DLiveは、BitTorrentを利用したTRON Blockchain-based Live Video Streamingサービス。2018年9月にサービスを開始。設立当初はLino Blockchainを利用していたが、2020年にTRON Networkへ移行した。特にゲームのライブストリーミング配信が多い。Monthly Active user数は5百万人。2019年の3月は300万人に対して、4月には500万人と67%の増加。また、昨年、1億人のアクティブユーザーをもつBitTorrent (Peer-to-peer ファイル共有サービス)プラットフォームへの参加により、更なるユーザーの獲得が見込まれている。

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どんな課題を解決しようとしているのか
With your help, we are changing the status quo of live streaming for both content creators and viewers

DLiveは、配信者や視聴者に対して革新的なReward Systemを提供できるライブ配信Platformを作ることをミッションとしている。配信者と視聴者の新しいベネフィットを創出し、現状のライブ配信サービスを以下の視点から大きく変えようとしている。(1) Platformの使用料を徴収しない、(2) 配信者だけではなく、視聴者へのRewardサービスを提供し、配信者と視聴者のコミュニケーションの活性化を促進、(3) また暗号通貨BTT((BitTorrent Token))の利用促進である。

これらは、ブロックチェーン上で暗号通貨を利用することで、非中央集権型による中間介入、搾取を排除し、法定通貨規則に縛られないマイクロペイメントを実現可能としている。それにより充実したRewardシステムを提供し、配信者, 視聴者のPlatform上での活動を促進している。

1. 配信者のPlatform利用料は不要「中央集権型」ライブ配信サービスでは、配信者が実際に収益を得るためには厳しい条件が設定されており、約30-40%をPlatform手数料として配信者の収益から差し引いている。DLiveでは、配信者の収益化の条件を緩和するとともに、収益増加の仕組みを提供。視聴者からのDonationやSubscription費用は、75%を配信者への収益として、残りの25%はBTT Steakコミュニティメンバーへ分配する。企業利益のためのPlatform利用料を徴収しない

2. 視聴者へのRewardサービス「中央集権型」ライブ配信サービスでは、視聴者に対する価値は無視されており、Rewardサービスは充実していない。DLiveでは、視聴者の参加も重要な要素と考えており、視聴者の活動(コンテンツの閲覧、チャット、寄付、コンテンツの共有等)によって、視聴者もRewardを付与。例えば、Treasure Chestといった仕組みを用意し、視聴者の活動によってChanelにTokenが蓄積され、視聴者へTokenが毎週還元される。

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3. 暗号通貨BTT((BitTorrent Token))の利用促進:Blockchain Platformの暗号通貨であるBTTを購入し、Stakeする(一定期間預け入れる)ことで、上述した25%の収益の一部を配当金として得られる。

B. THETA.tv (https://www.theta.tv/)

概要

THETA.tvとは、Blockchainを活用し、THETA network上で次世代のeスポーツやゲームに関するライブ配信に特化したサービス。Decentralized Peer-to-Peer Networkを利用し、ユーザーのネットワークリソースを共有できる仕組みを実現している。それにより、動画配信を高品質で拘束に低コストで実現。現存するCDN(Contents Delivery Network)の問題解消も期待されている。

韓国の放送局MBNやSAMSUNG VRとのパートナーシップや、Media AdvisorとしてYouTube, TwitchのCo-Founderが名を連ねており、中央集権・非中央集権の両方の目線からCDN解決に取り組んでいるところも大変興味深い。

最近のニュースとして、2019年にDLiveと提携し、800万人以上のユーザーのCross-applicationコラボレーションも期待されている。また、2020年5月には、Samsung Galaxy S20にプリインストールされることが発表された。THETA.tvは、既にSamsung Dailyプラットフォームでの利用も可能であり、旧Galaxy Productでの利用が可能となっている。それにより、THETA利用可能スマートフォン・タブレットは7,500万台を超える。eSportsコンテンツが今後増加する中、さらに多数のユーザーの獲得が見込まれる。

THETA.tvはその仕組み上、Enterprise ValidatorというTHETA Network上でのコンセンサスアルゴリズム検証をサポートする役割があるが、そこには、Google, 大手仮想通貨取引所のBINANCE、ブロックチェーン企業gumi, ベンチャーキャピタルのBlockchain Venturesなどが参加しており、今後大きな増加見られるビデオ配信ネットワークの強化に力を入れている。

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どんな課題を解決しようとしているのか

THETA.tvは、ホームページで以下の3つの課題について解決しようとしている。(1) 現存するCDNの限界によるVideo Streaming 品質の低下、(2) 4K, 8K, VR利用による急増するデータ配信需要対応、(3) 「中央集権型」動画配信の非効率性である。

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現在のCDNは、ユーザーに近いところに物理的なデータセンターを設置してコンテンツを提供することで品質の良いデータを早く届けることを実現しているが、今後さらに増加するデータ量をカバーする設立及び運用コストは多大なものとなることが懸念されている。また発展途上国への十分なデータセンターの設置ができていないのが現状であり、その結果、良質なビデオストリーミング提供が困難な状況となっている。

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THETA.tvは、Decentralized Peer-to-peer の動画配信サービスを実現することで、上記の課題解決に挑む。


THETA.tvでも視聴者の価値を重要な要素としている。THETA.tvの視聴者はDecentralized Peer-to-Peer Networkに参加することで、ビデオストリーミングのデリバリーネットワーク構築の一部を担う。自分の余っている帯域幅とコンピュータリソースを使って、自分のノードをキャッシング用のノードとして提供し、地理的に近い他のユーザーへストリーミングコンテンツを提供する(自分自身も同様に地理的に近い他のユーザーからコンテンツを提供してもらう)。リソースを提供することで、その対価としてToken(TFuel)を得ることができる。そして、そのTokenは、応援する配信者に寄付したり、商品を購入したりできる。


この仕組みは、視聴者だけではなく、同時にストリーミングサイトにもベネフィットをもたらす。THETAのWhite paperによれば、CDNの利用コストを80%も減少させる可能性がある。今後のストリーミング市場においてこの動画配信の仕組みにより大きな効率化改善が期待されている。

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商品購入ページ。PlayStation 4やNintendo Switchもリストにある。

商品購入ページ。PlayStation 4やNintendo Switchもリストにある。

ロードマップも提示されており今後のサービス改善が計画されている。

ロードマップも提示されており今後のサービス改善が計画されている。

5. 今後の展望

ブロックチェーンベースのライブ配信サービスは、次世代のライブ配信サービスとなるのだろうか。これまで見てきたように、ブロックチェーンベースのライブ配信サービスは、現在主流のYouTubeやTwitchなどが抱える課題の解決を目指してサービスが創出されている。ブロックチェーンの仕組みにより、中間介入や搾取を排除、配信者や視聴者への正当な対価の支払いを実現しようとするもの、またCDNにおけるデータ配信の課題に取り組むものなどである。

しかしながら、DLiveやTHETA.tvにおけるブロックチェーンプラットフォームの移管があったり、今後のRoadmapが示す通りに、サービス最適化への改善が予定されたりと、まだ発展途上の過程であることは否めない。Active ユーザー数もYouTubeやTwitchに比べて大きく差が開いており、ユーザーへのサービス認知度を高める必要がある。


ユーザーの視点から言えば、ブロックチェーン技術の有無という観点よりも、ユーザーにとって使いやすいのか、どんなベネフィットがあるのかという点が最も重要な点である。配信者にとってみれば、収益化の他に、視聴者が多いプラットフォーム、配信手段の容易さ等であり、視聴者にとってみれば、目的に合ったコンテンツの検索と良質な視聴、配信者とのコミュニケーションの敷居の低さ等である。


今後の主要ユーザーとなるY世代やZ世代*のデジタルネイティブ世代は、手軽に手持ちのスマートフォンで情報収集だけではなく情報発信、チャットよりもライブ配信を日常として利用するユーザーであり、益々ライブ配信の需要が高まる中で、これはブロックチェーンベースのライブ配信サービスにとっても好機である。彼らのライフスタイルや価値観にマッチするサービス、ニーズを取り込み実現することが、今後のサービス拡大において不可欠だろう。 *Y世代(1981年から1996年生まれ。2020年現在において、24才から39才の間). Z世代 (1997年から2012年)。


また、THETA.tvの取り組みに見られるように、トークンエコノミーを形成しより一層効率的な充実したサービスをユーザーに提供するサービスデザインや、中央集権と非中央集権の対立というよりも、互いのパートナーシップによるライブ配信における課題の解決、協調してより良いサービス創出を目指す、そのような形でのライブ配信サービスが次世代におけるライブ配信サービスの一つの手掛かりとなるのではないかと考えられる。





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